「「研究を聴く」 —西羽美助教—」- 木下・大林研究室 研究紹介

「研究を聴く」 —西羽美助教—

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「ゲノム解析」というと、A、T、G、Cの文字が延々と並ぶ膨大なデータをひたすら分析していくイメージだろうか。ヒトゲノムとは一人の人間の生命情報全体を指すが、生命情報だけで体に起きる変化が決定されるわけではない。人間の細胞の中では、タンパク質も遺伝情報と密接に関係し、重要な役割を果たしている。

 

西羽美助教はタンパク質の分析を軸に研究に取り組む。ゲノムとタンパク質を同時に扱うことのできる研究室は珍しいという。生命情報だけでなく、タンパク質との関連に着目した分析が評価を得た。

 

「ヒトゲノム一塩基変異のタンパク質相互作用面上での分布」。ゲノムの変異がタンパク質のどこにどのように分布しているか、そして変異は影響を及ぼしているのか。第15回日本蛋白質科学会若手奨励賞を受賞した研究で、タンパク質の立体構造の観点から、例外の存在を明らかにしている。

まず「普通」の状態について。人間の細胞の中には、多くのタンパク質が存在している。タンパク質は、アミノ酸が多数つながったペプチド鎖という鎖が、立体的に折り畳まれたかたまりの構造だ。そのため複数のタンパク質があると接触する面ができ、その面の中心へいくほど反応が起きやすい。これが相互作用面だ。

 

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(タンパク質の立体構造。特徴的な部分がらせんや矢印で示されている。下図は上図の中央付近の拡大。)

 

ゲノムの変異とは、基準となる配列を持つ「レファレンスゲノム」と個々人のゲノムを比較したときの差異をいう。通常、多くの人が持つ、すなわち発生頻度の高い変異は相互作用面の端のほうに位置している。多くの人が持つうえに作用面への影響が大きい真ん中に集まっていては、変異が引き起こす可能性のある人体への悪影響が高頻度で現れてしまうことになる。

逆に、頻度の低い変異や持っていても特段の悪影響がない変異は、作用面のどこにでも存在している。「高頻度の変異は作用面の端に多く、稀な変異は不規則に存在する」という仮説が正しいことが、分析で確認できた。

 

しかし、この仮説におさまらない例がある。

 

観察された20の例外的な変異のなかで、「アルギニンがグルタミンになる」という変化があった。どちらもアミノ酸(=タンパク質をかたちづくる)の一種だが構造が似ておらず、変化自体の振り幅がそもそも大きい。しかもこの変異の発生頻度は高く、作用面の真ん中に位置しているのだ。西助教は、どうしてこの変異があっても悪影響が現れず無事なのか、疑問を持った。

答えは他の研究者の実験報告にあった。タンパク質は複数くっついていると壊れにくくなる「ご利益」があり、濃度が高いとより結合を保ちやすくなる。変異によって結合力が20分の1程度に下がっても、人体では濃度が高いためタンパク質は壊れないという。

 

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この研究では、変異の分布に関する仮説を検証しつつ例外を示した。生命情報の段階では危うい変異が、タンパク質の数の力によって影響を抑えられている。ゲノムとタンパク質、両方の視点からの分析が結果に繋がった。

 

ゲノムは生命の情報で、タンパク質は「細胞で働く小人」とたとえる。研究を噛み砕いた言葉が印象的だ。

 

 

 

2015.7.24

(文・山口史津)

 

 

 

西羽美(にし はふみ)

博士(理学)。東京工業大学で生命情報学を専攻。名古屋大学研究員(2009-2010)、米国立衛生研究所博士研究員(2010-2012)。帰国後、横浜市立大学特任助教(2013)、同大学にて日本学術振興会研究員(2013-2014)。昨年8月から東北大学助教を務める。

 

 

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