「「研究を聴く」 —大林武准教授—」- 木下・大林研究室 研究紹介

「研究を聴く」 —大林武准教授—

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知的好奇心を原動力に、ゲノム分野の研究を通じて「人間の存在そのもの」への問いに迫る。「研究を加速させる」嬉しさを感じながら、研究者がアクセスできる遺伝子機能の予測システムの研究に取り組む。大林准教授に話を聞いた。

 

研究のルーツは

大学院時代、植物を研究していた。マウスを解剖したときは、小さな体の中の器官の緻密さに感動を覚えた。しかし「日常的に動物を殺すのはちょっと」との思いも抱いた。そして、病気の治療のためといった動物対象研究の切迫感から少し離れ、「今生きている世界をより良くしていく」ような、経済や食料問題の解決にじっくり取り組めること。この点が、改めて感じる植物研究の魅力だという。

「植物って結構自由度が高くて、動物ではルールになっているようなことを、植物はそれがどうしました?って乗り越えちゃうんだよね」。植物の面白さを語るスイッチが入る。

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(シロイヌナズナ。博士論文ではシロイヌナズナを研究の素材とした。写真はWikipediaより)

地上で伸びる茎だったはずが土に触れると根を形成したり、二つの木が接触・一体化(!)してそのまま成長したり。動き回れる動物と違い、植物は芽吹いたその場所で生き残らないといけない。そのたくましさは、進化の過程で動物では考えられない柔軟性を生み出している。

 

10年の研究生活を経て

現在、研究の中心にあるのは「自分がどういう風にできているのか知りたい」という探究心だ。2003年のゲノム解読から十二年。一人あたりの解析費用は10万円ほどに下がり、昨年には東芝が大学向けにゲノム解析サービスを始めるなど、発展が目覚ましい。DNAの4種類の塩基の並びを読み取ること(=配列の決定)が容易になったいま、重要なのは「配列の意味を知ること」だそうだ。

人間とチンパンジーの遺伝子は99.5%同じ、というニュースを聞いたことがあるだろうか。たった0.5%の差にしては、姿や言語など、違いが大きすぎる印象があるかもしれない。実は遺伝子は単独ではなくペアになってはたらき、相互の組み合わせの親しさにも個体ごと・生物ごとの違いがある。ゲノム解析で読まれた遺伝子間の関係性—大林准教授は遺伝子の「友達ネットワーク」と呼ぶ—に迫るシステムが、10年前に開発し改良を続ける遺伝子共発現データベース(ATTED-ⅡCOXPRESdb それぞれ植物、動物研究向)だ。

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(遺伝子の「友達ネットワーク」。位置と点の色で相関関係を表す。)

 

 

遺伝子共発現※データベースとは

人間の遺伝子情報の総体であるヒトゲノム。一人分に含まれる遺伝子数は2万から3万と言われ、文字通り膨大な量だ。この情報の山の中から、いったいどの遺伝子に注目すべきか。一つひとつ調べては時間がいくらあっても足りない。遺伝子共発現データベースは遺伝子どうしの関連の度合いを数値で示す、いわば「セットをおすすめする」システムだ。

遺伝子共発現データベースを用い、ガンの形成過程の研究を進めている研究者がいる。「研究を加速させる」貢献が評価され、昨年度船井学術賞、27年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞した。

課題もある。ある二つの遺伝子を比較した場合、遠い種(ヒトとネズミなど)では違いがみられるが、近い種(ヒトとチンパンジー)では違いが分からない。「人間特有の部分」に踏み込むために、大林准教授は「データベースの精度を上げたい」と意気込む。

 

研究生活のこれから

今では自分の研究だけでなく、研究室の管理に携わる場面も増えた。「一人で研究できる量は限られている」。学生にアドバイスをしたり、他の研究者とデータベースの改良を続けたりなど工夫をしている。他者の研究の足がかりを作る研究であるだけに、成果が広がる嬉しさと同時に、影響力への責任も意識している。

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限られた研究時間を意識しつつ、尽きることのない「知りたい」に向きあう。

「目標としては、今実際役に立つ研究と、自分がどういう風に存在しているか。その両方をやっていきたい。」

 

 

 

※「共発現遺伝子」とは発現パターンの似ている遺伝子をさす。ゲノムの情報がコピーされた段階が「発現」で、情報がコピーされたか否か、いつどれくらいコピーされたかを含めて「発現パターン」という。発現パターンが似ていると実際のはたらき方も似ている場合が多く、一緒に調べることが望ましいとされる

 

2015. 6. 23

(文・山口史津)

 

 

 

大林武(おおばやしたけし)

横浜出身。理学博士。東京工業大学大学院生命理工学研究科、東京大学医科学研究科ヒトゲノム解析センター研究員。2009年東北大学大学院情報科学研究科研究員、2012年現職。最近の受賞に27年度科学技術分野文部科学大臣表彰若手科学者賞、2014年度船井学術賞、2014年度日本植物生理学会奨励賞。共発現遺伝子データベースATTED-ⅡCOXPRESdbを開発。著書に『遺伝子発現データベースの利用と応用の最前線』(実験医学2011年9月増刊号、羊土社)などがある。

 

 

 

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